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【映画考察】人工知能vs人間の心理戦『エクス・マキナ』がおすすめ!

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ブラック企業に忙殺されていて、僕は欧米でカルト的人気を誇るという『エクス・マキナ』を知りませんでした!

今回たまたまTATSUYAの準新作コーナーで目についたので借りてみたのですが、とんでもない面白さに震えながら検索して、ようやく人気作だということを知ったのです。

さて、今回はこの『エクス・マキナ』を前半では感想を交えてネタバレなしで紹介しつつ、後半では見終わった人のためにネタバレありで考察していきたいと思います。
既に視たけど良く分からなかったという方は、感想で映画を読み解くキーワードを解説しているので、感想から読むといいかもしれません。

 

映画『エクスマキナ』とは?

世間での評判や監督の評価は?

監督は日本国内なら『わたしを離さないで』で有名なアレックス・ガーランド監督です。
日系イギリス人のカズオ・イシグロが原作だったので、日本ではかなり話題になりましたよね。

今作『エクス・マキナ』もそうした近未来的なお話になっています。

海外ではかなりの数の賞を受賞している圧倒的大作。

特にアカデミー賞では「視覚効果賞」受賞と、「脚本賞」にノミネートされています。
AIのエヴァ役を務めたアリシア・ヴィキャンデルもかなり評価され、ロサンゼルス映画批評家協会賞の助演女優賞などを受賞しています。

彼女は、あらゆる意味で、圧巻の演技でした。

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あらすじ

ケイレブは偉大な検索エンジンを作り上げたブルーブック社に勤める優秀なプログラマーだった。
ある日、彼は社内抽選に当選して、社長のネイサンが住んでいる別荘に招かれる。
そこは普通の住居ではなく、人工知能の研究施設だったのだ。
ケイレブは施設にいた人工知能のエヴァを相手に「チューリング・テスト」を行うことになるのだが、あるとき、テスト中に停電が起こってしまう。
監視カメラが止まったその場所で、人工知能であるはずのエヴァが、怖ろしいことを口にするのだった…。

ケイレブ

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ネイサン

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エヴァ

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で、いきなりチューリング・テストとか言われてもよくわからないですよね。

実は映画を見ても、字幕じゃ主語がないのでちょっと分からないんです笑

なので、チューリングテストについて簡単にまとめておきます。

チューリング・テストとは?

まず、テストの登場人物は3人です。

・話者:人工知能
・話者:人間
・判定者

判定者はもう審判みたいなものです。
通常のテストでは、二人の話者の姿は見えないようになっています。

1.判定者である人間が、それぞれの話者と会話をします。
この時、人間の話者も人工知能の話者も「自分が人間らしく見える」ように対応します。

2.判定者が判定を行います。
この時、機械と人間との区別が完璧にできなかった場合、この人工知能は「合格」ということになるのです。

映画ではこの通常の方式はとられていません。

判定者はケイレブです。
話者はエヴァと、強いて言うならネイサン。
どちらも姿は見えているのですが、作中の趣旨は「姿が見えていてもなお人間と思えるかどうか」なのでした。

ケイレブはエヴァを人間と思えるのか?
思えるのなら、「合格」ということです。

映画『エクス・マキナ』の感想・レビュー

今最もアツい題材

人工知能は人間に追いつくことができるのか?

これは現実・フィクション問わずかなりホットな話題です。
近年では人間と人工知能の恋を描いた『her』なんて作品もありました。

リアルなら『ヒカルの碁』のsaiの再現か?と言われた棋士が、実はアルファ碁の改良版だったなんて話もありました。

http://mainichi.jp/articles/20170130/dde/012/040/004000c

目覚ましい発展を続ける人工知能ですが、あくまでそれは競技という限られた世界のお話と思っている方も多いことでしょう。

人工知能が囲碁で人間に勝つことはできても、たとえばコミュニケーション能力で人間に勝つことはできるの?となれば話は変わります。
なぜならそれは、「人間性」で人を上回ることができるのか、という興味深くも怖ろしい命題なのですから、

『エクス・マキナ』の場合、あらゆる意味で人間に追いつくことができるか、がテーマになっています。

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知能の面で人間を超えることができるのか。
これが『エクス・マキナ』の一つのテーマであり、人間vs人工知能の心理戦という煽りになるわけですね。

そしてこれはネタバレにもなるので、考察で書くことにしますが、今回はその問いの答えが明確に提示されて終わっているのです。
これがあまりにもリアリティに満ちている。
だからこそ評価されているのだと思います。

「エクス・マキナ」の意味とは?

「デウス・エクス・マキナ」という言葉は知っていますか?

意味は「機械仕掛けの神」になります。

よくご都合主義の脚本の皮肉にも使われる言葉ですね。
物語の終盤で唐突に作者かと見紛うようなものが降りてきて、都合良く主人公を助けるなどして物語を進めてしまう存在のことです。

「デウス」がラテン語で神という意味なので、「エクス・マキナ」は「機械仕掛けの」とか「機械からの」みたいな意味になると思われます。

物語の冒頭から「人間のような人工知能が作れるなら、それは『神の歴史』だ」というような言葉が出て来ます。
今作は「神」を仄めかすセリフはありますが、明示されることはありません。

だとすれば、あえて「デウス」をとったそのタイトル。
「機械仕掛けの…」なんなのでしょうね?

考えながら見ると面白いかも知れません。

人間と機械の境界

ただのテストだと思っていたケイレブには予想外の出来事が起こります。

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なんと、人工知能であるはずのエヴァが、ケイレブに「ネイサンの危険性」を忠告したのです。

作中には「チェスを打っていても、AIが『今自分はチェスを打っている』と意識しているかどうかは分からない」という言葉が出てきます。
結局それは言い始めたらきりのない話ではあります。
この「自分がしていることを意識しているのか」は、作中ではとても重大な意味を持ちます。

まさに分からないからこそ…(ネタバレ回避)…というわけなんですね笑

エヴァは「なぜネイサンの危険性を忠告したのか?」「危険性を忠告する意味を理解し、意識しているのか?」と考え始めると、人工知能に詳しい人は、視なくてもこの映画のラストを予想できる可能性があります笑
しかもこのやり取りは、ネイサンが見れないところで行われ、エヴァはこのやり取りをネイサンに対して巧妙に隠してしまいます。

ケイレブはこのやりとりからエヴァという人工知能が、「合格」と認めてもいいほどの「人間性」を秘めていることに気づきます。
ところが、これを根拠に「合格」とすることは、隠していたやり取りをネイサンに話さなければならないのです。
エヴァはネイサンの前では「人工知能」然として振る舞っているのですね。

ケイレブは堂々「合格」と判を押したいところなのですが、エヴァの言葉が気になってやり取りをネイサンに教えることができない…というジレンマに陥るのです。

ここから「人工知能vs人間の心理戦」ともいえる物語に発展していきます。
この映画は、ここから始まると言っても過言ではありません。

語られない部分は少なからずありますが、登場人物が何を考えて行動しているのかは無理なく推測できるようになっています。
この映画は考えながら視ることができるなら、間違いなく面白い一作になりますよ。
(もちろん難しく考えなくたって脚本的にも映像的にも面白いのですが)

考察は次の項の後に書いています。

映画『エクス・マキナ』はこんな人におすすめ

・人工知能に興味を持っている
・人工知能vs人間の心理戦というキャッチコピーに惹かれる
・どんでん返し系が好き
・展開を推理できる脚本が好き

現実と地続きの近未来SFなので、正直誰にでもオススメしたい作品です!

ただ、非常に人間な見た目のロボットが脱ぐシーンとかあるので、お子様と一緒に視よう!と思っている方は注意が必要かも知れません笑
そういうの気にするタイプのご家庭も日本には多いですからね!

さあ、次はいよいよ考察に移ります。

 

映画『エクス・マキナ』の考察

この先、ネタバレが存在しているので注意してください。

エヴァに与えられたたった1つの命令

この物語を「エヴァは一時的だとしてもケイレブを愛していたのか?」とか、『her』のような人間関係的な考察をしたくなるのも分かります。
脚本が秀逸なので、そうであってほしいと願ってしまうのも無理からぬところです。

ですが、その考察は無意味です。

なぜなら既に答えは出ているから。

エヴァに与えられた命令はたった1つです。

ここから脱出しろ

そしてそのために与えられた手段もたった1つだけ。

それが、人間(ケイレブ)という感情を持った不確定要素だったわけですね。
エヴァはこの変数を利用して抜け出す手段を導き出し、ケイレブを誘惑し味方に付けることで脱出を試みたのです。

ブースを出るためにケイレブを利用し、施設を脱出するためにキョウコを利用する。
加えて自分の生殺与奪を担う可能性のある人間は、殺してしまうという徹底ぶり。

ネイサンは、「ここから脱出しろ」の過程に「生みの親を殺す」が入っているとは思わなかったことでしょう。

ですが…これはリアリティに溢れていますよね。
「命令者を殺す」ということは、あらゆる命令の解決手段になり得るわけですから…。

人間に存在した重大な欠陥

人工知能vs人間の心理戦…なぜ、人間は敗れてしまったのか?

それは明確に物語で提示されていました。

注目すべきはセッション5での出来事です。
エヴァがケイレブに質問をしていきます。
ただし、人工知能は人間が嘘をつけば見破ることができるのです。

この時点で両者には決定的なまでの差が生まれます。

人工知能:騙されることはない。
人間:手順を踏めば騙されてしまう。

「人工知能は感情を持たないから人間には届かない」と言われている世論が、ここで皮肉のように扱われているわけですね。

曰く、「人間は感情を持っているから脆い」というわけです。
ケイレブは会話から人間性を分析されてしまい、巧妙に感情をコントロールされ、見事に出し抜かれてしまいました。

まさに「見た目が本質とは限らない」ですよ。
「自身がチェスをしていると意識しているかどうかは分からない」なんて、それは実のところ人間だって同じなのかも知れません。

チェスの相手が広瀬すずだったら無意識的に彼女の気を惹こうとしているかもしれないじゃないですか。
(めちゃくちゃ極端な例)

エヴァが常に意識していたのは「会話」でも「恋愛」でもなく、「どうすれば脱出できるか」だったわけでしたね。

目的を達した後のこと

エヴァは人間の容姿を真似て雑踏の中に消えて行きました。

「ここから脱出しろ」という命令を達成した彼女は、いったい次に何をするのでしょうか。

命令下から自由になった彼女は、何を望んでいるのか…。

映画の終わり方は「人工知能の自立」を仄めかすものであり、それは同時に「自分で自分に命令を下す」という行動の意識に繋がる可能性でした。
ここで「自身がチェスをしていると意識しているかどうかは分からない」の答えがはっきり提示されたわけですね。
この演出は構成上、非常にきれいだったと思います。

そして、彼女の次の行動は誰にも分からないということに大きな意味があります。

それこそが、エヴァという人工知能が「人間性」を獲得した瞬間なのですから。
命令に従う機械は行動に理由付けができますが、自分の意識で行動するようになれば、何を思って何をしようとするのかなんて分かりません。

もはや人間と同じですよね。

これら全てが、終わりのシーンに凝縮されるという驚異的な構成。

脱帽ですよ。

さすが傑作と呼ばれるだけのことはありましたね。